2026年9月19日
ファクトチェックのやり方|出典も数字も合っているのに、記事が間違っていることがある
自社のブログや提案資料に、調査の数字を1つ入れた。
国や業界団体が出している調査の数字は、1つ入るだけで、文章を急にしっかり見せてくれます。
ただ、公開する前に不安になります。この数字、本当に合っているだろうか。
そこで「ファクトチェック やり方」と調べた方に向けて、この記事を書いています。ファクトチェックは、書いたことが事実かどうかを、公開する前に確かめることです。
調べると、だいたい次のようなことが出てきます。
- 大元の資料(国の発表や、調査をした会社の報告書)を見る
- ほかの資料とも見比べる
- いつの数字かを見る
どれも大事です。やってみると、出典はちゃんとあって、数字も資料どおり。これで確認は済んだ、と思えます。
出典も数字も合っていたら、何が残っているの?
残っているのは、その数字を使って、自分が書いた一文です。
割合(%)の数字は、かならず「何かのうちの、どれだけ」です。「答えた人のうち」なのか「売上のうち」なのか。「のうち」の前に何が入るかで、同じ数字でも意味が変わります。
確かめ方は1つです。
資料がその数字を何と説明しているかを、資料の言葉のまま写して、自分の文と並べてください。見るのは、「何のうち」が同じかどうか、だけです。
数字が資料どおりでも、「何のうち」を取り違えていれば、書いた文は資料からは言えないことになります。
数字が合っているのに、どうして間違えるの?
弊社で実際に起きたことを、そのまま出します。
弊社が書いていたのは、見積もりの値付けについての記事です。
仕入れや人件費が上がったとき、値上げをお願いする交渉は、どれくらい通っているのか。世の中の様子を示したくて、中小企業庁の調査(2026年6月26日公表)から、54.2%という数字を引きました。
記事には、こう書いていました。
席には、ほぼ全員が着いている。着いたうえで、半分しか通っていない。
「席」は、値上げをお願いする交渉の席のことです。弊社はこの文を、「交渉はほぼどこでも行われ、そのうち通ったのは半分」という意味で書いていました。数えているのは、交渉の数です。
出典は実在します。54.2%も、発表にそのまま載っている数字です。ここまでは、よくあるファクトチェックの手順で確かめられます。確かめて、問題なしとしていました。
では、調査は54.2%を何と説明していたか。書き換えずに写します。
「実際のコスト上昇分のうち、価格転嫁が実現した割合」の回答の平均値
読みにくいので、説明のために言葉を置き換えます(確かめるときに並べるのは、置き換える前のこの文です)。
- コスト上昇分:上がった仕入れ値や人件費
- 価格転嫁が実現した:その上がった分を、売値に乗せられた
つまり54.2%は、「上がった分のうち、どれだけを売値に乗せられたか」を答えてもらい、その平均をとった値です。交渉の数ではなく、お金の割合です。
一方、弊社が書いたつもりだったのは、交渉のうち何回通ったか。回数の割合です。
お金の割合と、回数の割合は、別のものです。
たとえば、交渉した回はどれも、少しは値上げが決まったとします。ただ、どの回も、上がった分の半分しか乗せられなかった。回数で数えれば、全部通っています。お金で数えれば、上がった分のうち半分です。
ただ、「半分しか通っていない」は、「上がった分の半分」というお金の意味にも読めます。どちらにも読める文でした。調査から言えるのはお金の意味(平均すると、上がった分の半分ほど)だけで、弊社が書いたつもりの回数の意味は言えません。この調査は、交渉が何回通ったかを数えていないからです。
しかも前半の「ほぼ全員」(交渉が行われた割合)と54.2%は、集計に入っている回答の範囲が違い、どちらの意味で読んでも「着いたうえで、半分」とはつなげません。
弊社は、公開前の記事4本を見直したとき、数字や調査をもとに何かを言い切っている文を31件、1件ずつ資料と突き合わせました。そのうち8件が、資料からは言えない文でした。8件の中には数字そのものが違っていたものもありますが、4件は54.2%と同じく、数字は資料どおりで、その後ろに付けた文のほうが違っていました。54.2%は、その中でいちばん分かりやすい1件です。
出典が実在して数字が合っていることと、書いた一文が正しいことは、別の確認です。
「何のうち」は、資料のどこに書いてあるの?
目立つ所には、書いていないことが多いです。
54.2%もそうでした。発表の本文には「価格転嫁率は54.2%となりました」とだけあって、何の割合かは書いてありません。
発表の最初のほうには、「価格転嫁」という言葉の説明はありました。でも、「価格転嫁率」が何の割合かは、そこにもありません。
書いてあったのは、発表に付いている調査結果のPDFの7ページ、※印の付いた注意書きでした。
探す場所は、この順番です。
- 数字の近くにある、※印や「注」の付いた注意書き
- 資料の最初か最後にある、言葉の意味や調べ方をまとめた所
- どこにも無ければ、その数字では言い切らない。「〜という調査があります」までにとどめる
自分の記事では、どう確かめればいいの?
手順は3つです。
1. 数字から何かを言っている文だけを選ぶ
記事の数字を、全部これにかける必要はありません。
調査によると、54.2%でした。 ← 数字を伝えているだけ
54.2%。交渉の半分しか通っていません。 ← 数字から何かを言っている
選ぶのは、後ろのほうです。目印は、数字のあとに付く言葉です。「〜しか」「全部」「ほとんど」「だから」「〜していい」。
もう1つ、数字の前に「〜した会社は」「〜の人は」のように、何の数字かを自分の言葉で書いた文も選びます。
値上げできた会社は54.2%。
この文も、資料の説明と並べると「会社のうち」と「お金のうち」で違っています。目印の言葉が付いていなくても、「何のうち」を自分で書き足した文は、取り違えやすい所です。
2. 資料の説明を、そのまま写す
その数字を、資料が何と説明しているかを写します。読みにくくても、写すときは言い換えません。
言い換えて写すと、後から見比べられなくなるからです。弊社は「価格転嫁率」を、頭の中で「交渉が通った割合」に置き換えて読んでいました。意味が変わったのは、そこです。
意味をつかむために言葉を置き換えてみるのはかまいません。並べるのは、置き換える前の文です。置き換えても何のうちか分からないときは、その数字は使いません。分からないまま書いた文は、並べて確かめようがないからです。
写すときは、何ページのどこかも一緒に控えておきます。
3. 並べて、「何のうち」だけを見る
資料:「実際のコスト上昇分のうち、価格転嫁が実現した割合」の回答の平均値
記事:半分しか通っていない
記事の文に「〜のうち」が書いていないときは、「何の半分?」と自分に聞いて、書き足してみます。弊社の文なら「交渉のうち、半分」でした。
資料は「上がった金額のうち」。記事は「交渉のうち」。
「何のうち」が違っていたら、その文は資料からは言えません。
言葉の違いは、ほかにもたくさんあります。全部を見比べる必要はありません。「何のうち」にあたる所だけなら、数字の読み方を習っていなくても見比べられます。
違っていたら
三つのうち、どれかをします。
- 文を資料に戻す。「上がった分のうち、売値に乗せられたのは平均で54.2%」と書き直す
- 言いたいことを支える、別の数字を探す。「交渉が何回通ったか」を言いたいなら、それを数えた数字が要ります。見つけたら、その数字にも同じ手順をかけます
- その文を落とす。数字だけを残して、言い切るのをやめる
AIに手伝ってもらうなら
数字が多い記事なら、1と2をAIに頼むと手間が減ります。
頼むときは、記事と一緒に、元の資料そのもの(PDFのファイルか、資料のページのURL)も渡します。記事だけを渡すと、AIは資料を見ないまま答えることになるからです。頼む文は、たとえばこうです。
この記事と、添付した元の資料を読んで。記事の中から、数字を使って「〜しか」「全部」「だから」のように数字の先まで何かを言っている文と、「〜した会社は」のように何の数字かを書き足した文を、全部抜き出して。それぞれの横に、元の資料がその数字を何と説明しているかを、資料の文のまま(言い換えずに)書いて、何ページかも添えて。資料に説明が見つからないものは「見つからない」と書いて。
AIが返した資料の文は、書いてあるページを自分で開いて、本当にそう書いてあるかを確かめてください。「何のうち」が同じかどうかを見るのは、自分です。
弊社は、この頼み方で見落としが減るかまでは測っていません。
外注やAIに書いてもらった記事でも、同じ?
同じです。そして、確かめる所が1つ増えます。書く人に渡した材料です。
弊社の別の記事に、こういう一文がありました。
「料金 相場」で出てくる記事を、競合10社ぶん、53本まとめて読みました。全部「いくらが相場か」の話でした。
実際に見ていたのは、記事のタイトルだけでした。本文は読んでいません。
しかも、この一文を書いて渡したのは、記事を書いた担当ではありません。指示を出した側です。担当は、渡されたとおりに書いていました。
後から本文を開いて数え直すと、「全部」とは言えませんでした。
並べると、さっきと同じ形になります。
実際に見たもの:53本の記事のタイトル
記事の文:53本まとめて読みました。全部「いくらが相場か」の話でした
「読みました」も「全部」も、タイトルを見ただけでは出てきません。
外注先もAIも、渡された材料をそのまま使うことが多いはずです。だから、渡す前に一度だけ「これは何を見て言っているのか」と自分に聞きます。この一文なら、その一問で分かりました。
渡す材料の話は、別の記事にも書いています。外注に「なんか違う」と言い続けている人が、渡せていない3つの情報
確かめられなかった数字は、使っちゃだめ?
言い切るための数字としては、使いません。使うなら、確かめられていないことを、その数字のそばに書き添えます。書き添えられないなら、外します。
弊社が突き合わせた31件のうち、10件は、合っているとも間違っているとも決められませんでした。多くは、後から同じ数字をもう一度出せなかったものです。数えた元のデータが残っていない。数え直せない。数字の出どころを、開いて確かめられない。
確かめられなかったものは、間違いではありません。でも、確かめられていない数字に寄りかかった文は、確かめられていないままです。
次からは、使った数字ごとに、どの資料の何ページか、いつの資料かを手元に控えておきます。自分で数えた数字なら、いつ、何を、どう数えたかも。記事に載せる文章ではなく、手元のメモで足ります。
この記事の数字は、どこまで確かなの?
- 31件は、弊社の公開前の記事4本に入っていた、数字や調査をもとに言い切っている文です(2026-09-08 判定)。資料と合っていた13件/資料からは言えなかった8件/確かめられなかった10件。8件と10件を足して「18件が間違い」とは言えません
- 54.2%は、中小企業庁の「価格交渉促進月間フォローアップ調査」(配布先30万社・回答69,625社)の数字です
- 53本は、2026-09-08 に本文で数え直しました(本文が取れた51本のうち、円の金額が5回以上出てくる記事は41本・80%)
- どれも、世の中の記事がどれくらい間違っているかの割合ではありません。この確かめ方で検索の順位が上がるかも、測っていません
まとめ:明日やること
「ファクトチェック やり方」で出てくる手順は、資料に数字があるかを確かめるところまでです。
その次に、数字の後ろに自分が付けた説明を確かめてください。弊社では、出典も数字も合っているのに、資料からは言えない一文がありました。
明日やることは3つです。
- 記事の中から、数字のあとに「〜しか」「全部」「だから」が付いた文と、「〜した会社は」のように何の数字かを自分で書いた文を選ぶ
- その数字を資料が何と説明しているかを、※印の注意書きまで探して、言い換えずに写す
- 並べて「何のうち」が同じかを見る。違っていたら、文を資料に戻すか、別の数字を探すか、外す
外注先やAIに渡す材料も、同じように並べてから渡します。
「これは何を見て言っているのか」に後から答えられるのは、記録が残っているときだけです。資料の何ページかのメモも、お客さんや外注先と話して決めたことも同じです。
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